植民地建設の親密圏と混血性

Bear, Laura. 2007. Introduction. Lines of the Nation. New York: Columbia University Press.

イギリス系だが印度で生まれ育った人間、多く混血児、のことをアングロ・インディアンという。彼らはその混血性からインド社会において不安定な存在であり続けてきた。本書は西ベンガルはカラグプールに存在するアングロ・インディアンのコミュニティで行われたフィールドワークを本にしたエスノグラフィである。この都市は現在でも世界で最大のプラットホームを持ち、植民地政策におけるインド鉄道網建設の主要な拠点であった。焦点は、「鉄道カースト」としてのアングロ・インディアン・コミュニティにある。インド鉄道建設が始まったときから、アングロ・インディアンはしばしば中間管理職に任ぜられ、通常のインド人はヒエラルヒーの最も下層の職にしかありつけなかった。このような状況を受けて、彼らはインド的なジャーティの観念と政治及び階級的な観念を混合させた自己理解を発達させた。彼らのマージナルな性質に着目することで、著者はこのネーションのコスモロジカルな編成を、親族・相続・家系といった観念が変形していく過程から描き出そうとする。

興味深かった点

  • 人類学の本はかなり豊かな文脈の中に位置づけられているので、いつも読むのが一苦労である。この本は「植民地における鉄道」と「アングロ・インディアンの混血性」というふたつの線が交わる所におかれている。また理論的にはアン・ローラ・ストーラーのイギリス帝国に関する著作の延長線上にある。すなわち、親密圏における政治と再配分の問題系である。
  • やはり intimacy への着目、そして家系や親族、相続と言った観念の利用は人類学者の本領発揮といった所。なるほど、確かにこのようなアプローチは極めて有効である。大いに参考になる。
  • ストーラーの延長線上にあると言うことはすなわちフーコーが『社会は防衛しなければならない』でスケッチした系譜學の延長線上にあると言うことでもある。