アボリジニとは誰か?

Povinelli, Elizabeth A. 2002. Chapter 5, The Poetics of Ghosts : Social Reproduction in the Archive of the Nation. In The Cunning of Recognition. London: Duke University Press.

面白かった。1976年、アボリジニ土地法の施行によって、ノーザンテリトリー準州アボリジニたちは土地への権利を獲得するために法律の要求するアボリジニの定義に従う必要が出てきた。法律はある土地に対して共通の霊的帰属 spiritual affiliations を持つ地域出自集団 local descent group に対してのみ権利を認めており、それを客観的に証明することができなければアボリジニたちは土地に対する権利要求を認められないと言うことになる。かくしてアボリジニたちの土地をめぐる闘争は新しい段階に入る分けである。当初、イギリス人類学が築き上げてきた議論に基づいて、地域出自集団とは血統により父の出自を受け継いでいく Patrilineal Clan-Estate Group であるという理解が主流であったが、それは霊的出自 spiritual descent を主張するアボリジニたちの見解と対立することになった。筆者がフィールドワークを行ったノーザンテリトリー準州のベルユエンたちは、自らがこの土地に対して正統な権利を保有していることを示すために、古いカセットテープを再生する。それはある人物のカプーグ kapug と呼ばれる一周忌の際に歌われたワンガ wangga と呼ばれる歌の記録である。ワンガは、歌い手自身のものではなく、その歌をかれに告げた祖先の霊 nyuidj のものである。彼らはそこに含まれている歌詞が、ベルユエンの水飲み場を自らの祖先の霊 nyuidj がなわばり durlg (totemic Dreaming site) としていることを歌っていることを願っているのだ。もしそこに場所への帰属が歌われていれば、セックスによって繋がれた父系出自集団とは異なる出自の論理を組み立てることができる。しかし、このワンガにはそのような内容の歌詞はなく、試みは失敗に終わる。

感想

  • ただでさえわかりにくい現象を取り扱っているのに、文体がそれを悪化させており、理解するのに一苦労した。
  • 要は、「法の提供するスキームに基づきその要件に従って自らをアボリジニとして構成し直すことを要求された人々」の話。そして、それが困難であること、すなわち、実際の生活を法の話す言葉に翻訳することの困難さは、アボリジニに限ったことではない。彼らアボリジニは我々にとって全くの他者であるわけではなく、近代の法という窮屈な洋服に自らを収めようと奮闘することにおいて立場を同じくしているのではないか。
  • オーストラリアの入植者たちは自らの祖先が犯した罪にどう向き合えばよいか、というのは、確かに大きな問題だ。