人類学者・民族主義者・文化

Spencer, Jonathan. 1990. Writing Within: Anthropology, Nationalism, and Culture in Sri Lanka. Current Anthropology 31(3): 283-300.

人類学者による文化の研究は、ある文化の長期的な連続性というものを前提としている点で、しばしばナショナリストによる言説と土俵を同じくしている。筆者は1982年における反タミル暴動の中で多くのタミル人が殺されたことを受け、シンハラ人の文化とは一体なんなのかということを考え直す。マーティン・ウィクラマシンハは、マリノフスキやホカートといった人類学者による影響を受けながら、シンハラ文化が単一のものではないということを認めながらも、自らのナショナリストとしてのプロジェクトのため、佛教という連続性を見い出さざるを得なかった。彼が見いだしたスリランカ文化の根底にあるのは、佛教と稲作である。これらの特徴は、農民でない人々の子供にも、強く自国のイメージとして焼き付いているという。そして人類学者もまた、シンハラ文化の連続性を歴史の中に見いだす限り、彼らナショナリストと同じ地平に立っているのである。

感想

  • 「佛教と稲作」、どこか聞いたことのあるフレーズである。
  • 基本的には論文は当時人類学で盛んだったクリフォードの「文化の窮状」の延長線上にあるもので、文化概念をどうするか、ということも論文の焦点になっているが、個人的にはこの議論はすでに過去のものとして扱っても良いのではないかという気がして来ている。