ソ連崩壊後の経済におけるローカリズムと交易

Humphrey, Caroline. 1999. Traders, "Disorder," and Citizenship Regimes in Provincial Russia. In Buraway, Michael and Katherine Verdery (eds.) Uncertain Transition: Ethnographies of Change in the Postsocialist World. Oxford: Rowman & LIttlefield Publishers.

ソ連崩壊後のロシアにおいてトレーダーがどのように人々に理解されているかについての文章。ロシアに導入された資本主義は西洋のそれとは異なる marchant capital として理解されており、自立したブルジョワジーが成熟する代わりに、中世における商業資本と封建支配層にも似た関係性が発達史、生産組織は旧来のまま残る一方で商業を通じて利益を得ようとする大型資本が誕生したとされていた。しかし、それでは、1999年の段階で既に見られている小規模の貿易を説明することができない。旧来の親族関係が重要な役割を果たしている中国とは違いロシアで発達しているのは従来のロシア史には見られない何か新しい形の資本主義ではないか。現状を理解するためには、人類学者は、この資本主義がどのように内側から理解されているかを観測しなければならない。現在の市場での実践は長らく違法とされてきた所から発達したものであって、国際的な売買を行って生計を立てる人々は無秩序の根源と見なされているのである。ソ連が崩壊した後もコルホーズなどの概念や実践は今でも残存しており、このような団体は利益のためにではなくその成員の生存を第一義的な目的として活動している。地域への帰属を制度化したソ連の崩壊しても、地域性への強いコミットメントは継続している。これに対して(地域の秩序を脅かすものとして考えられる)貿易を行うのは個人化された shuttlers や trader-retailers そして entrepreneurs 及び組織化された新しいコングロマリットの businesspeople や旧国営企業から仕事を請け負う brokers などである。彼らは主に交易を通じて価値のある品々を運び出す一方でゴミを運び入れるものたちと一般に見られており─彼らが多く中国系やカフカース人であることも手伝って─、無秩序の源泉として理解されている。このようなローカリズムと交易の対立を前提として、後者の規制を目指した法レジームを作り出すことによって、ロシアでは現在、交易を行うマイノリティを排除し、home-based traders の活動を規制する、新しい市民権のレジームができつつあるという。