イスラーム法、社会規範、ロカリティ

Bowen, John. Forthcoming. Fairness and Law in and Indonesian Court.

本論考は、社会的規範がどのように法的理由付けに影響を与えるか、という観点から、インドネシアイスラーム法廷におけるとあるケースを叙述したもの。インドネシアには市民法に基づくものととイスラーム法(シャリーア)に基づくものの二種類の裁判所が存在し、それぞれ教育機関が別である(法学部及びIAIN)。イスラーム法廷で扱われるのは、結婚及び離婚に関するもの、及び財産分割に関するものに限定されている。その中に一人でもムスリムが含まれていた場合、それはイスラーム法廷で扱う対象に入るが、どちらへ出頭するかは自由である。このガヨ地方では、市民法の裁判官は自分のポストを短期的なものと考えている場合が多く、ガヨ語も話せなかったが、イスラーム裁判官は地方の出身者が多く、ガヨ語やその慣習も良く理解していた。今回のケースは、1998年に行われた財産分割に関するもので、イネン・マリヤム対アマン・マス、と仮に呼ぶことにする事件である。原告は4人、被告は3人。6人姉妹と1人の長男からなる兄弟のうち4人の姉妹が1971年になくなった父と1986年に亡くなった母の土地を再分割して欲しいと訴えた。彼女らの訴えによれば、唯一の男であるアマン・マスが土地を不当に多く受け取り、そこには合意がなかった。アマン・マスは合意はあったと主張した。裁判の過程で、話し合いはあったこと、それを証明する書類が存在すること、分割がくじ引きで行われたこと、などが分かった。80年代までならばこのようなケースは原告の敗訴になってもおかしくなかったが、裁判官たちは、各人に割り当てられた比率がイスラーム法の精神に則っていないこと、12年経っていても現在訴えがあるということが合意がなかったことの証拠になること、この地方(ガヨ)の慣習(アダット)として正しくないこと、両性平等権の価値観、などを根拠に、原告勝利の判決が下った。その後上告があり、再審が行われたが、結果は変わらなかった。このケースは、裁判官たちが地方の社会的規範を根拠に判断を行った良い例である。