ソ連崩壊直後のロシア地方経済

Humphrye, Caroline. 2002. "Icebergs," Barter, and the Mafia in Provincial Russia. In The Unmaking of Soviet Life. Ithaca: Cornell University Press.

ソ連崩壊後の地方経済はそれぞれ「氷山」と呼ばれる、マフィアと関係しながら経済的にある程度自立した様々な団体の集合として現れた。あらゆるレベルの団体(ロシア共和国だけでなく、地方の例えばブリヤート共和国から村、果ては農場まで…)がソビエト連邦からの脱退を宣言し、地方の裁量が上位の権威が制定した法に優越することを宣言したとき、そこでは既に違法と合法の境目は見失われ(そもそも何が合法なのかも分からず!)、市民社会は崩落した、と筆者は言う。そこに現れるのは、筆者が「宗主」と呼ぶ、独立した、様々なサービスを提供する集団とそれへの依存であり、ソ連時代に存在した枠組みは経済的サブシステムとして活動し始めた。ルーブルに対する信用はもはやなく、貨幣は崩壊する。基本となるのはクーポン制をベースにした、仕事場が保有する、特定のカードを持つ人間のみモノを手に入れることのできる「市場」である。また、「Order」と呼ばれる、単位制の売買方法もある(すなわち一人につき一オーダーのみ「買う」ことができ、オーダーに含まれる物品の量は変動する、と言う手法)。また、物々交換も行われ、それもまた閉鎖した経済的関係のネットワークを作り出す。これらのサブシステムは単に経済的に自立しているだけではなく、政治的に自立している─すなわち、暴力を保持しており、マフィアのネットワークの中に位置付けられている。